ストーリー
下町の片隅で暮らす三上(役所広司)は、見た目は強面でカッと頭に血がのぼりやすいが、まっすぐで優しく、困っている人を放っておけない男。しかし彼は、人生の大半を刑務所で過ごしてきた元殺人犯だった。社会のレールから外れながらも、何とかまっとうに生きようと悪戦苦闘する三上に、若手テレビマンの津乃田(仲野太賀)と吉澤(長澤まさみ)が番組のネタにしようとすり寄ってくる。やがて三上の壮絶な過去と現在の姿を追ううちに、津乃田は思いもよらないものを目撃していく……。
引用元:https://filmarks.com/movies/87364
「ゆれる」「永い言い訳」の西川美和監督が役所広司と初タッグを組んだ人間ドラマ。これまですべてオリジナル脚本の映画を手がけたきた西川監督にとって初めて小説原案の作品となり、直木賞作家・佐木隆三が実在の人物をモデルにつづった小説「身分帳」を原案に、舞台を原作から約35年後の現代に置き換え、人生の大半を裏社会と刑務所で過ごした男の再出発の日々を描く。殺人を犯し13年の刑期を終えた三上は、目まぐるしく変化する社会からすっかり取り残され、身元引受人の弁護士・庄司らの助けを借りながら自立を目指していた。そんなある日、生き別れた母を探す三上に、若手テレビディレクターの津乃田とやり手のプロデューサーの吉澤が近づいてくる。彼らは、社会に適応しようとあがきながら、生き別れた母親を捜す三上の姿を感動ドキュメンタリーに仕立て上げようとしていたが……。
引用元:https://eiga.com/movie/92069/
登場人物・キャスト
- 三上正夫:役所広司
- 津乃田龍太郎:仲野太賀[7][10]
- 庄司勉:橋爪功[7]
- 庄司敦子:梶芽衣子[7]
- 松本良介:六角精児[7]
- 井口久俊:北村有起哉[7]
- 下稲葉明雅:白竜[10]
- 下稲葉マス子:キムラ緑子[10]
- 吉澤遥:長澤まさみ[7][10]
- 西尾久美子:安田成美[7]
- 西尾あゆみ:白鳥玉季
- 医療刑務官:康すおん
- 処遇主席:井上肇
- 女性警官:山田真歩
- 検察官:マキタスポーツ
- リリーさん:桜木梨奈
- 介護士・服部:松澤匠
- アルバイト・阿部:田村健太郎
- 介護士・江藤:三浦透子
- 分類統括:松浦慎一郎
- 刑務官:沖原一生
- 女性医師:まりゑ
- 免許センター・試験官:松角洋平
- ロワイヤル白金の女(女):松岡依都美
- 中年狩りの若者・中田:奥野瑛太
- 中年狩りの若者・山口:田中一平
- 下稲葉組・髙橋:髙橋周平
- あかつき学園・園長:松浦祐也
- 田村さん:小池澄子
- 介護士・大竹:安楽将士
- 介護士・川口:今藤洋子
引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/身分帳
感想
それほど多くの社会派ドラマを観て来たわけではありませんが、バニラが観た現代日本の社会派ドラマ作品の中で最高傑作と言ってもいい映画でした\(≧▽≦)/
でも……社会派ということで現代社会の闇が描かれているので……2度観たいと思えないほど精神的にきつい映画でもあります……(^▽^;)
本作は今までオリジナルの脚本を手掛けて来た西川美和監督が、ノンフィクション作家の佐木隆三さんが実在の人物をモデルにして書いたという『身分帳』という小説を現代にアレンジして映像化したものになるそうです。
役所広司さん演じる三上正夫は、江戸っ子気質で、怒りっぽく、情に厚く、真っ直ぐで、困っている人をほっておけない仁義の男でした。
でも、その性格が災いして、本作で詳しく描かれることはありませんでしたが、どうやらホステス関係のトラブルで人を殺してしまい、13年間刑務所に入れられてしまうのです。
アンナ・カレーリナの法則で説かれていますが『幸福な家庭はどれも似たようなものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸である』ですよね(-ω-)
不幸は相対的なものです。
いつの時代もその時代を生きている人でなければ、その時代の苦しみはわかりませんが、現代社会は一度レールを踏み外した人間の生きづらい社会だと言われています。
現代社会は効率化を優先し、幼いころからある程度決められたレールが用意されています。
それが、学校制度であったり、社会の風潮であったりするのですが、中には様々な理由で、レール乗れない人、レールを踏み外した人が存在し、今の時代は一度レールからそれてしまった人に優しくありません。
本作の主人公三上はまさに、そんな現代人の象徴として描かれているのです。
三上は13年の刑期を終え、出所することになりますが
当然、浦島太郎です……(´-ω-`)
社会復帰のために職探しを始めますが……社会はあまりに変わり過ぎていました。
しかも、三上は幼いころに孤児院に預けられ、十代前半くらいから裏社会に足を踏み入れ、三上は普通の生活というものをほとんどしたことがなかったのです。
そんな社会のレールから踏み外してしまった三上に世間の目は冷たく、職探しは難航し、橋爪功さん演じる身元引受人の弁護士のススメで生活保護を受けることになります。
役所の人は申請をはじくのが仕事であり、申請は難航しますが、どうにかこうにか保護を受けられるようになり、三上は社会復帰に向けて努力することになるのです。
そんなある日、社会のレールから踏み外れても必死に生きる三上の前に、若手テレビプロデューサーの津野田と吉澤がドキュメンタリー番組制作のためにすり寄って来るのでした。
三上は生き別れた母親の捜索協力をしてもらうために、テレビ局に自分の人生が記された身分帳を送っていたんですね。
ですが、津野田と吉澤の目的は、三上の母親を探すことではなく「社会のレールから踏み外した人が、社会復帰するために奮闘するドラマは視聴者に受ける」という、いわゆる感動ポルノ目的であり、三上のことよりも番組の視聴率のために撮影をしていたのです。
三上はまっとうに生きようと必死に努力しますが、そのたびに社会の暗黙の了解というか、集団主義社会の中で人が自然と身に着ける処世術がわからず、困っている人を助けては問題を起こしてしまうのです。
三上が人助けをするのは正しいと誰もが思いますが……同調圧力や集団主義に徹せられなければ、生きることのできない社会でもあります……。
正しいことを、正しいといえない社会に疲れ……三上は再び昔仲の良かったヤクザの元に戻ってしまうんですね……(´-ω-`)
犯罪を犯してしまった人の再犯率はなんと約30%ほどもあるらしく、その原因は社会制度や不寛容にあるとされています。
そりゃあ、どこにも行き場所がなければ、再び犯罪に手を染めてしまうしか生きる道はありません。
よくレールの上の保証された人生を歩んで来た人々が「決められたレールの上の人生を歩きたくない」と言いますが、ちょっとひねくれたことを言うと、レールを踏み外してでしか生きることのできなかった人たちにとって、とても腹立たしいことだと思うのです(´-ω-`)
再び裏社会に戻ってしまった三上ですが、ヤクザの女将さんの説得もあり、表社会に戻ることができ、介護の仕事を見つけます。
親切にしてくれた人々への恩返しのため『見ざる聞かざる言わざる』を肝に銘じ、困っている人がいても関わらない、たとえそれがいじめのような悪口であろうと相手の話に合わせ、いつも愛想笑いを浮かべるなど普通の人が普通にやっている処世術を身に着けるのです。
ですが、三上にはそんな正しいようで、どこか狂っている生き方ができなかったのでしょう……(´-ω-`)
最期は持病の高血圧からなのか、心筋梗塞のような病状に陥り、一人静かにアパートで亡くなっていることが判明してあっけなく映画は終わってしまうのでした( ;∀;)
いや……タイトルの皮肉よ(T△T)
この映画のどこに『すばらしき世界』と言える要素があるのか?
確かにすばらしい人たちも大勢登場しますが、それだけでは今までの三上の生きて来た世界を『すばらしき世界』と全肯定できるだけの根拠に欠けると思います。
よく世界は素晴らしいと肯定するために創作作品などでは美しい自然描写を描いたり、愛を語ったり、本作のように三上が生き別れたという母を探しているという設定なら、最後に生き別れた母親と再会して「本当は愛されていた」という感動を挟むことで、ああ、やっぱり人生は素晴らしいと丸く収めるんですよ( ;∀;)
ですが、本作の映像は全編を通して灰色掛かっていて、お世辞にも綺麗とは言えませんし、何よりコンクリートジャングルで閉塞感が半端じゃないです……(^▽^;)
そして『ハリーポッター』のハリーや『NARUTO』のナルトなども、親から愛を与えられない辛い幼少期を過ごしても、最終的には「愛されていた」という真実を知り、いい話に収まるのに、本作の三上は生き別れた母親に会えぬまま、母親が三上を愛していたのかわからないまま終わってしまうのです……(´-ω-`)
三上は苦労するだけ苦労して、やっとまっとうな生活を送れると思ったら、人間と社会の醜い部分を見せつけられ、生きるためそのドロドロに溶けた鉛を飲むが如く、醜さを受け入れ……死んでしまうのです……!
どうして西川美和監督は原作タイトルである『身分帳』ではなく『すばらしき世界』に大改編したのか?
西川美和監督の現代社会に対する皮肉が込められているようにしか思えないんですよね(^▽^;)
辛い映画ですが、傑作に間違いないと思います(`・ω・´)b