ゆる文

ゆる~くアニメだとか、映画の感想文

アニメーション映画 日常/コメディー『漁港の肉子ちゃん』「みんな望まれて」

引用元:映画『漁港の肉子ちゃん』公式サイト

 

 西加奈子(にし かなこ)さん原作小説『漁港の肉子ちゃん』を明石家さんまさんが企画・プロデュースしたアニメーション映画。まさか、さんまさんがアニメーション映画をプロデュースするなんて驚きましたよね( ̄▽ ̄)

 さんまさんが西加奈子さんの『漁港に肉子ちゃん』にほれ込み、5年ほどの歳月をかけて制作されたそうで、思い入れが深い作品なわけです。だからなのか、声優陣のキャスティングをさんまさんと近しい関係にある人たちで固めてしまったため、プチ炎上してしまったそうですね(^▽^;)

引用元:CROSOIR

 普通はキャラクターのイメージに合う人が審査して選ばれますが、さんまさんの希望で選ばれた声優さんたちが多いので、違和感が最後まで拭えないキャラクターもいます……(^▽^;)

 

 まあ、ジブリとかでも違和感のある声優キャスティングがありますし、それが味だと思えるのでそこは全然問題にはしていません。声優の問題はどうあれ、作画も良いし、食事描写も美味しそうだし

引用元:映画『漁港の肉子ちゃん』

音楽も素敵で、物語は大きな事件の起こらない、日常が淡々と描かれるだけですが、飽きさせることなく観ているとセンチメンタルな気持ちにさせられる良作だと思います(*´▽`*)

 

 娘の見須子喜久子(みすじ きくこ)通称「キクりん」の目から見た、主人公の見須子菊子(みすじ きくこ)通称「肉子ちゃん」が描かれます。肉子ちゃんは幼い頃から苦労ばかりしており、大人になってからも様々な人(男)たちから騙され借金(その他)を押し付けられ、キクりんがいう通り「ボロボロである」ですが、底抜けに明るい肉子ちゃんは騙されたことを気にせず、男との恋が終わると各地を転々とし、本作の舞台である北陸の小さな漁港にたどり着くところから物語は始まります。

 

 Wikipediaなどで西加奈子さんの経歴を調べてもらえばわかりますが、西加奈子さんも父が海外赴任先のイランで生まれ、小学校一年生から四年生までをエジプト・カイロで過ごし、帰国後は大阪で育ったという遍歴の多い過去があるそうです。

 

 少なからず、キクりんの心理描写は西加奈子さん本人の経験をもとにしているのかな? と、いらぬ勘ぐりを巡らせてしまいますよね( ̄▽ ̄) キクりんは母の恋が終わったら、漁港町から離れて、また各地を転々することになるのではないかと芥川龍之介がいうところの「ぼんやりした不安」を常に感じています。

 

 そんな生活をしていて、キクりんはグレることもなく純粋に育っているんですね(;´∀`) もし、キクりんがグレていたらまた違った物語になっていたでしょう。本作の一つの見せ場にキクりんが友人のマリアちゃんと喧嘩してしまう一幕があります。

 

 マリアちゃんはクラスの覇権争いにキクりんが協力してくれなかったことを根に持って、陰口をいったりしていたんですよ。でも、最終的に覇権争いに敗れて、マリアちゃん一人だけ仲間外れにされてしまうようになりました。

 

 キクりんはどっちつかずの態度で、マリアちゃんの様子をうかがっていました。そしたら、同じクラスのチック症? の男の子二宮くん

引用元:映画『漁港の肉子ちゃん』

と一緒に、「ことぶきセンター」に行ったとき、キクりんはマリアちゃんに対して「ざまあみろ」と思っていたことを二宮くんに打ち明けるのです。

 

 自分に陰口を叩いた人物に「ざまあみろ」と思うのは当然の反応だと思いますが、キクりんはそう思ってしまう自分は嫌な人間だと、自分を責めるんですよ……。そんなところを見ても、キクりんがいかに純粋ないい子かおわかりいただけるでしょう。

 

 二宮くんに話して決意を決めたキクりんは喧嘩していたマリアちゃんと仲直りします。その他に日常の何気ない場面や、最終的に明かされるキクりんの出生の秘密など、親子の問題が描かれています。

 

 西加奈子さんは2022年本屋大賞受賞作の『夜が明ける』を始め、社会派小説を書かれる人ですが、本作もご多分に漏れず貧困、親子問題などの問題提起が重くなり過ぎずに描かれていました。

 

 本作のキャッチコピーに「みんな望まれてうまれてきたんやで」という文句を使ってしまったために、公開当時作品の出来不出来ではなく、そのキャッチコピーが炎上したらしいんですよ(-_-;)

 

 確かに、オルナ・ドーナトさんの『母親になって後悔している』という本が世界中で話題になるように、「みんな望まれて生まれてきたんやで」というのは悲しいことですが、みんなに当てはまるわけではありません(´-ω-`)

 

 中には、親に捨てられたり、望まぬ妊娠、虐待や毒親に苦しみ、今苦しんでいる人からすれば「みんな望まれてうまれて来たんやで」というキャッチコピーが毒になると思います。

 

 ですが、本作を観てみると、キャッチコピーのように無責任にすべてを肯定する綺麗事には描かれていなくて、そう思いたい、そうあって欲しいという願いのような側面が強いんですよ。

 

 つまり、生まれてしまったなら仕方がないというふうに、肯定も否定もせず、根本的な問題は解決されませんが、それでも生きているという実存することへの肯定です。

 

 その結論に納得できない人も当然いると思いますが、もしかすると、二宮くんに懺悔して心が軽くなったキクりんのように、本作を観て心が少し軽くなった人もいるかもしれません('◇')ゞ

www.youtube.com