ストーリー・解説
繰り返される「今日」― 待つのは「死」か、「明日」か。ある日突然、刑事と犯罪者の兄弟、家族4人が出口のない空間に閉じ込められた…。
刑事と兄弟が足を踏み入れたビルの非常階段。そこでは1階を下るとなぜか最上階の9階が出現、何度下っても同じ9階に辿り着いてしまう。一方、家族4人が迷い込んだのは荒涼とした大地が続く中の一本道。真っ直ぐ車を走らせても、どうしても元の同じ道に戻ってきてしまうのだった。そんな中、刑事に足を撃たれたカルロスは瀕死となり、長女カミーラは持病の発作で危険な状態に陥る…。今、体験していることは夢なのか?それとも現実なのか?そして彼らはこのループする空間から無事に脱出できるのか!?
引用元:https://filmarks.com/movies/65947
無限に繰り返される空間に閉じ込められた人々を待ち受ける予測不能な運命を描き、世界各地の映画祭で注目を集めたメキシコ製スリラー。刑事に追われる犯罪者の兄弟が、とあるビルの非常階段に逃げ込んだ。刑事もその階段に足を踏み入れるが、1階の階段を下りると何故か最上階の9階が現われ、何度下りても9階にたどり着いてしまう。そんな不可解な状況の中、兄が刑事に足を撃たれ、瀕死の状態に陥る。一方、車で荒涼とした大地を横断していた家族4人は、一本道なのに何度も同じ場所を走っていることに気づく。やがて、娘が持病である喘息の発作を起こし……。出演は「アモーレス・ペロス」のウンベルト・ブスト、「父の秘密」のエルナン・メンドーサ。ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち 2016」上映作品。
2014年製作/101分/メキシコ
原題または英題:El Incidente
配給:AMGエンタテインメント
劇場公開日:2016年1月12日
引用元:https://eiga.com/movie/83680/
登場人物・キャスト
ラウル・メンデス(マルコ)
マグダ・ブルゲンヘイム(ブライド)
ウンベルト・ブスト(カルロス)
エリック・トリニダード・カマチョ
エンリケ・メンドーサ
エルナン・メンドーサ(ロベルト)
ナイレア・ノルビンド(サンドラ)
引用元:https://filmarks.com/movies/65947
感想
世界各国の映画祭で注目を集めたメキシコ製SF・スリラー。
ある日突然、非常階段に閉じ込められた刑事と犯罪者の兄弟。
ある日突然、荒涼とする大地に閉じ込められた4人の家族。
何の繋がりもないように思われた二つの物語は実は一つに繋がっており……想像を超えた二つの物語の結末は……⁉
賛否は分かれることと思いますが、ハイラインの『輪廻の蛇(プリデスティネーション)』などのパラドックスのループを描いた作品に興味がある方は、絶対に観た方が良いです。
視聴後はちょっと鬱っぽくなるかもですが、価値観が変わるし、芸術的ですらあります。
かくいうバニラはSF好きなので、時間のギミックのある本作は最高に楽しめました。
※もし、これから観ようと思ている方は、ここから先は読まないようにしてください。
ややこしい作品なので、この映画をバニラ的に考察したいと思います。
考察の参考にさせてもらったのはアマゾンプライムのレビュー欄に書かれていた考察たちです。
この作品を観ていない人にはさっぱりの考察だと思うので、興味がある人だけ読んでくださいね。
では、物語の結論を端的に言うと、この作品の世界はループしているのですよ。
物語で「非常階段の世界」と「荒涼とした大地の世界」に閉じ込められた人々が、脱出方法がわからぬまま、35年の時間が一気に流れたときの絶望感、虚無感、は『ミスト』という映画や『五億年ボタン』という作品を観たとき以来の衝撃でした。
このループ閉鎖空間は35年周期で入れ替わるようになっているらしく、荒涼とした大地に閉じ込められた少年は、犯罪者を追っていた刑事だったのです。
そして、刑事と一緒に閉じ込められていた犯罪者の弟は35年の周期を終えて、次のループ空間に移ったとき、非常階段に閉じ込められていた記憶を失いエレベーターのホテルマンに記憶が書き換えられてしまいます。
文章で説明するのは難しいのですが、あるサイトに書かれていた情報を参考にさせてもらうと
道路の世界⇒階段の世界⇒廊下の世界⇒線路の世界⇒筏の世界、そしてまた道路の世界というふうに、35年周期で世界はループしていると考えられます。
そのようにループしていることがわかったとして、ではそもそも、そのループ空間とは何なのか?
ループから抜け出す方法はあるのか?
作中で詳しく語られることはありませんが、ループから抜け出す方法はあるようです。
本作は仏教的と言われていますが、このループする世界は仏教でいう六道でしょう。
仏教では六道世界から抜け出すには悟りを開いて解脱しろといっていますが、本作『パラドクス』での悟りとは、『次の世界にいかないこと』だと思います。
登場人物たちは35年を迎えたときに、『次の世界に行く』か『次の世界に行かない』かの選択を迫られます。
それで『次の世界に行かない』を選び、死をもってその世界を完結させることができれば、ループを終わらせることができるようになっていますが、何せ35年間同じ空間に閉じ込められていた登場人物は、待ち受ける世界がどんな世界でも構わないから、次の世界に賭けてみたくなるのが道理ですよね(^▽^;)
ですが『次の世界』に行ってしまったら、登場人物たちは記憶を失ってしまうので、また35年を同じ世界で過ごさなければならなくなります。
このままでは一生、解脱できそうにありませんが、唯一救いとなる解脱のヒントとなる出来事が用意されています。
それは、前世のアイテムを継承できることと、死期が近くなると前世の記憶を思い出すことです。
登場人物の一人の死期が近くなると、『次の世界に行くな』と若い登場人物に伝えるので、その忠告と継承したアイテムの意味を理解できたとき、どこかの段階でループを終わらせる人が現れるでしょう。
それが物語の冒頭でエスカレーターに乗って流されていくウエディングドレスの老婦人です。
アマゾンプライムのレビュー欄では、この老婦人が輪廻=ループに終止符を打ったかもしれないと考察されていました。
これが、ループに関する考察です。
そして、もう一つの謎ですが、そもそも『ループする世界』とは何なのか? というものでしょう。
ある人物がこのように答えています。
「35年を閉じ込められた。だがこれは無駄な時間ではなかった。何故ならこれは現実ではないからだ。私も君も本物ではない。我々の存在は別のものなんだよ。どこか別の場所に存在している。現実世界のどこかにな。我々がこの無間地獄で、35年間も苦しんでいる間、どこかで幸せに暮らしているのさ。我々はここで、エネルギーと幸せを産むために、肉体と感情を酷使する。どこかにいる本物の自分たちのために……現実世界のための偽りの装置、それが我々なんだ」
以前マイケル・サンデル氏の『これからの正義の話をしよう』という本を読んだとき、『オメラスから歩み去る人々』というSF小説を知りました。
『オメラスから歩み去る人々』の世界では、ユートピアを維持するために、一人の子供を地下室に監禁しなければならないそうです。
バニラはこの映画を観たとき、この『オメラスから歩み去る人々』を連想しました。
『オメラスから歩み去る』を読んだことがないので詳しい設定はわかりませんが、一人の子供のエネルギーか何かが、幸福な社会には必要で、本作『パラドクス』でもループ世界に閉じ込められた人々のエネルギーが現実世界の幸福に還元されているそうなのです。
他に例を挙げるとしたら、『マトリックス』でいうところの水槽脳のような感じなのでしょう。
マトリックス内での人間の生活が、現実世界での機械たちのエネルギーになっている的な?
もし、現実世界の幸福のために、このように別の世界で苦しみ続ける人が存在していいのか?
これからの正義の話をしよう――。