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アニメーション映画 ドラマ/ミステリー『神々の山嶺』「登ることだけによって生かされて来たからだ」

引用元:映画『神々の山嶺』公式サイト

 夢枕獏(ゆめまくら ばく)さん原作で、谷口ジローさんが漫画化した『神々の山嶺(いただき)』をフランスのパトリック・アンベール監督がアニメーション映画化したのが本作です。いや~まさかフランスの監督がアニメーション映画を作ってくれるとは驚きですね( ̄▽ ̄)

 名作と呼ばれる作品は世界共通のテーマを含んでいるもので、アニメーション映画にしたい気持ちよくわかりますよ。「人は何のために山に登るのか?」という問題は冒険家・登山家だけではなく、「人はどうして生きるのか?」という普遍的テーマに繋がりますからね。

 

 本作を観れば、実存的な問題の一つの到達点に気付けるかもしれません。と、そんな堅苦しいこというと、身構えてしまった人もいるでしょう(^▽^;) でも安心してください、物語として最高に面白いですから。

 

 どんな話かというと、登山家のジョージ・マロリーはエベレスト登頂に成功していたのか? という謎を巡って、山岳カメラマンの深町誠(ふかまち まこと)がひょんなことからマロリーの物と思われるカメラと巡り合います。

 

 ですが、マロリーのカメラは何故か消息不明となっていた天才クライマー羽生丈二(はぶ じょうじ)が奪っていってしまいました。深町は羽生の身辺を当たり、やっと羽生を見つけたかと思うと、共にエベレスト登頂に挑むことになるという物語です。

 

 エベレストと言えば世界最高峰の山で標高8000メートル強あるらしいです。標高500メートルでも「そんな、あの山は500メートルだぞ……!」と思うのに、8000メートルの高さなんてどんなリアクションすればいいか想像もつきませんよね(^▽^;)

 

 近年では道具の機能・軽量化、ルートの確立、登山方法の蓄積、天気予報精度の向上などでエベレスト登頂成功率は高くなっているといいますが、それでも死者が一定数は出ているのが現状らしいです。

 

 しかも『神々の山嶺』の時代設定は恐らく1990~2000年代くらいなので、なお難易度は高いです。しかも、羽生は単独登頂に挑戦するので、もう自殺行為ですね(^▽^;) 羽生は今までにも何度も命の危険に遭ってきて、奇跡的に生き残って来た人でした。

 

 何度も命の危険にさらされているのに登ることをやめられないのです……(/_;) いったい何が彼を突き動かすのか? どれだけ理論的に説明されても理解できる人はいないでしょう。そうです、そのテーマは登山だけに言える話しではなく、世の中の様々な問題に言えることです。

 

 例えばダイビングとか、今パッと思い出しましたが、命綱なしで超高層ビルの上でパフォーマンスをして、誤って転落してしまったYouTuberの人がいましたが、その人も『神々の山嶺』の羽生と同じで、命の危険を冒してもどうして挑戦し続けたのか?

 

 恐らく命をかけてでもやり遂げたい、その世界を見ている人でなければわからないことが沢山あるのだと思います。バニラは、人生をかけてでもやり遂げたいことがあるというのは、とっても幸せなことだと思うのですよ。

 

 中島敦の小説(『山月記』だったかな?)に「人生は何事もなさぬにはあまりに長いが、何事かをなすにはあまりに短い」という一文があります。「正にそうだな~」と思わされますよね( ̄▽ ̄)

 

 中島敦は享年33歳でこの世を去ったそうで、彼が最期に遺した言葉が「書きたい、書きたい」「俺の頭の中のものを、みんな吐き出してしまひたい」と涙を溜めながらいったそうです(´-ω-`) 

 

 中島敦は33歳と最大多数の人々よりは短い生涯でしたが、実存的な意味を見つけて充実した生涯を送れたと思うんです。多くの人は、実存の意味もわからぬまま死んで逝くんですからね。バニラだって何事もなさぬまま、何事もなせぬまま、実存の意味もわからぬまま無為に死んで逝くでしょうし……。

 

 かと言って、チキンなバニラは「エベレスト登頂してやるぞ!」「命綱なしで高層ビルの上で懸垂してやるぞ!」「フリーダイビングで世界記録を出すぞ!」「誰かの命を救うぞ!」「世界を救うぞ!」「海賊王になるぞ!」「火影になるぞ!」などなせないことを知っています(^▽^;)

 

 実存の意味を悟った人は幸せだと思うのです。羽生の人生も大変なことは色々あったようですが、本人がいうように後悔はない人生だったのだと思います。羽生の遺言を引用↓

『これを読んでいるなら、俺は戻っていない。カメラはおまえのものだ。マロリーに関する真相を知り、記事が書けるかもしれない。だが、マロリーが登った理由や、俺が登る理由は、きっと見つからない。ここに来てわかったはずだ。おまえを突き動かしたものが俺を登らせた。それは俺にもわからないが、わからなくても生きることはできる。生きる意味を探す必要など俺にはない。登ることだけによって生かされて来たからだ。俺は最期まで登り続ける。後悔はない』

 

 そこでエベレスト単独登頂に成功し力尽きた羽生の映像が映し出されるのです……。もう、泣きました(T_T) 羽生が言っている通り、彼は生きる意味を探す必要など登山と出会ってからなかったのです。羽生にとって登ることが生きることだったからです。

 

 世間がどういおうと、羽生は幸せだったとバニラは思うのです。そんな、普遍のテーマはフランスのアニメーション監督の心も射止め、アニメーション映画にしてくれたのでした。また日本の作画と違って写実的な趣があって、本作の世界観によくあっていると思いました('◇')ゞ

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