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映画 SF 『ギヴァー 記憶を継ぐ者』「真綿で首を絞めるような、優しさに息詰まる世界」

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引用元:ナタリー

 こういう作品めっちゃ好きです(●´ω`●) 『ギヴァー』の世界では、記憶と精神を制御する薬を毎日飲み、酷い言葉をすべて置き換え、激しい感情というものは毎日の投薬で抑制しているので争いなどはない。

 すべてが管理されたコミュニティーの中で、限りなくユートピアに近い理想的な社会が描かれています。年頃になると、長老委員会のお偉方が職業を決めて、子供たちは自分に与えられた義務を全うし、ゆりかごから墓場まで安泰。

 まあ、秩序が厳しくて自由が少ないですが、民主主義国家に住んでいてこんなこと言うと叩かれそうですが、人間が目指したユートピアとはこれなんじゃねっ?と理想的な気さへします。主人公のジョナスは年頃になり、長老委員会によって『記憶を継ぐ者(レシーヴァー)』に選ばれところから物語が動き出すのですね。

 ここまで観て、まだレシーヴァーとかギヴァー、そしてコミュニティーのことがいまいちわかりませんでしたが、ギヴァーである老人からジョナスが外の世界の様々な記憶を見せられることで、少しずつコミュニティーの謎が解けて来ます。

 どうやら、外の世界から隔離された場所に本作の舞台となるコミュニティーはあるようで、人々は外の世界のことを知らずにコミュニティー内で生活しているようなのです。

 まるで、『マトリックス』』のような展開になってきました。ジョナスは外の世界の色々な記憶を引き継ぎ、外の世界には残酷で恐ろしいことがあると知りましたが、その現実を上回るほどの美しいことがあると知り、コミュニティーのみんなをコミュニティーの中らか解放するために外を目指すという展開になりました。

 どういう仕組みになっているのかは知りませんが、外の世界のある一定ラインを超えるとコミュニティーの中のみんなも記憶を見るのか? 思い出すことができるらしいのですね。

 ストーリーを詳しく説明していたら、二千文字以上いってしまうので、書きたいことだけ書きます。まずね、ユートピアから解放するって言って、主人公のジョナスが奮闘するわけですが、本当にそれが正しい行いなのか?と思うのですよ。

 どういうことかと言いますと、一生痛みを知らないままで一生を終えられるなら、痛みをわざわざ知る必要があるかっていうことなのですよ。この作品と似た話にバニラの好きな伊藤計劃さんというSF作家の『ハーモニー』があるのですが、『ハーモニー』の小説の中でも似たような哲学的問いがありました。

 痛みや苦しみがあるから、生きていることは素晴らしいと肯定もできますが、かといって痛みや苦しみを知らないまま生きられるならそれに越したことはないとも思うのです(´-ω-`)

 それなのに、痛みや苦しみのない世界から強制的に外の世界に連れ出して苦しみを味わわせてやるのはエゴではないのか?まあ、それを言い出すと人間みんな例外なく利己的なので何もできなくなってしまうので偽善やエゴでも誰かのためになるならWIN-WINでいいことだと肯定できます。

 が、ジョナスのしようとしていることはWIN-WINの利己行動ではなくて一方的な痛みの押し付けなような気がするんですよね……。『マトリックス』でも似たような話しがありましたね。

 マトリックスの世界は偽物ですが、そのマトリックスで暮らす人々はそこが現実の世界だと信じて一生を終えられるわけです。それなのに、わざわざマトリックスの世界から目覚めさせて辛い現実を押し付けて苦しませる必要があるのか(。´・ω・)?

 その証拠にマトリックスでは、目覚めることに疑問を抱いた人物が、再びマトリックスの世界に戻るために裏切ります。つまり、痛みや苦しみを知らないまま生きられるなら、それに越したことはないという話でした。

 ですが、その痛みや苦しみがあるから生きている喜びを強く感じることができるので、それは人それぞれですが。芸術などは痛みや苦しみ、人間の負の部分から生まれるので、痛みや苦しみがないということは芸術のない世界になるということなので味気なくなるでしょうし。

 ダーウィンが言っているように痛みや苦しみの自然選択によって人間は成長できるので、人間が進化し続けるには苦しみ続ける必要があります。もし痛みや苦しみを克服してしまったら、人間としてもう成長はできないでしょう。

 ニーチェは『たった一度でいい、本当に魂が震えるほどの悦びを味わったのなら、その人生は生きるに値する』と言っています。お腹が空いているときほど料理がおいしく感じられるように、痛みや苦しみが強いほど感謝の気持ちが湧き上がり、生きる喜びが感じられるわけです('◇')ゞ 無慈悲で残酷で不条理なほど世界は美しい――。